成務天皇

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成務(せいむ)天皇 稚足彦天皇

それは、確かに存在した。
だが、その輪郭は、どこか揺らいでいる。
神話か。史実か。
その境界に立ちのぼる陽炎のように、垂仁天皇の時代は、静かに、しかし確かにこの国の「かたち」を探し始めていた。


白鳥の羽ばたきが、静寂のなかに国の輪郭を描き出す。

風が止む間(あわい)に

かつて、
その名が轟くだけで大地が震えた皇子がいた。
日本武尊。
その苛烈な光は、
ときに大地を焦がし、
ときに人の心をも焼き尽くした。
だがその光が白き鳥となって天へ昇ったとき、
残されたのは、荒ぶる熱ではなく、
ゆっくりと地を潤すような静けさだった。
熱が冷え、
風が落ち着き、
人々はようやく、自らの息づかいを確かめられるようになった。
その静寂の只中に、
ひとりの帝が立つ。
成務天皇。
帝がなしたのは、剣による征服ではない。
散らばる村々の声を束ね、
人々が自らの足で立つための「拠り所」を定めることだった。
山と山のあいだに、和ぎを。
川と村のあいだに、実りを。
人と人の、心のあいだに、信義を。
それは、見えぬ糸で大地を織りなすような、
静かにして壮大な「国造り」の儀式だった。
名が与えられ、
境が定められ、
散乱していた地名に、初めて秩序が宿る。
道は結ばれ、役目は置かれ、
暮らしという名の地図が、ゆっくりと大地に描かれていく。
もはや人々は、
いつ終わるとも知れぬ戦に怯える必要はない。
遠くへ行くことを止めたのではなく、
足元に、確かな故郷を得たのだ。
英雄の神話は、語り継がれる記憶となり、
人々の営みは、揺るぎない土台の上に花開いていく。
だがその静けさの底には、
まだ言葉にならぬ不安が、かすかに揺れていた。
それでも人々は、その揺らぎさえ抱きしめて、
新しい暮らしを始めていく。
静けさとは、停滞ではない。
すべてが、あるべき場所に収まりながらも、
なお未来へと伸びていくための余白を残すことだ。
こうしてこの国は、
千年の安寧へと向かう最初の一歩を、
確かに踏み出したのである。

2016年4月7日

未完謹呈