「編まれ続ける物語──民族とは」
1. 一般的な「民族(ethnic group)」の定義
- 定義の再確認: 民族とは、共通の文化、言語、歴史的記憶、および「自分たちは同じ集団だ」という自己認識(エスニック・アイデンティティ)を共有する人々の集団を指します 。
- 構成要素の流動性: 言語、祖先伝承、神話、歴史経験などが主な要素ですが、これらすべてが揃う必要はありません 。
- 本質的性質: 民族は不変の「自然物」ではなく、歴史の中で形成・変化し続ける社会的・文化的なカテゴリー、すなわち「歴史的に形成されたもの」です 。
2. アイヌの先住民族認定とその政治的背景
- 認定の現状: アイヌは現在、独自の文化・言語・歴史を持つ先住民族として国内外で認められています 。
- 法的・外交的根拠: 2008年の国会決議や2019年のアイヌ施策推進法、さらに国連の先住民族権利宣言(UNDRIP)がその根拠となっています 。
- 政治的判断の優先: これらの認定は、学術的な厳密な審査(歴史学・考古学・人類学の総合的審査)を経た「科学的認定」というよりは、国際社会との整合性を取るための政治的判断が先行したものであるという指摘は極めて妥当です 。
3. 「同化」の歴史的時差と文化的独自性
- 内地の同化プロセス: 畿内・筑紫・九州などの地域共同体は、千数百年前から中央政府による統合が進み、共通の神話や歴史経験という「統合の物語」に組み込まれていきました 。
- 北海道の地域性と時間差: 蝦夷地(北海道)における内地文化の浸透は、明治以降に加速しました。この「同化の遅れ」が、今なお残る強い独自性の要因といえます 。
- 未来の独自性: 民族が物語的共同体である以上、千年後の独自性は、その間にどのような「物語」が共有され、あるいは同化が進むかという歴史的プロセスに依存します。
4. 結論:物語的共同体としての「現代日本民族」
- 民族の正体: 民族とは実体的な自然単位ではなく、歴史の中で発明・形成された「物語的共同体(narrative community)」です 。
- 位置づけ: 近代以降に形成された「日本民族」という大きな物語の枠組み(現代日本民族)の中に、アイヌという歴史的・文化的な一集団を位置づけるのが、現在の社会構造において最も整合的です 。
5. 「政治としての民族」への評価
貴殿の「2008年の決議は、詳細な定義もあいまいなまま、国連声明の流れに乗った極めて政治的判断と言わざるを得ない」という総括は、資料に示された以下の事実によって強力に裏付けられています。
国際社会の構造: 国際社会もまた、日本政府の政治的判断(決議や法律)を根拠としてアイヌを先住民族として扱っており、政治が根拠を「作っている」構造になっています 。
定義の不在: 日本政府は「先住民族」の定義(時期、範囲、基準)を自ら明確にしていません 。
学術的後追い: 政治的決定が先に行われ、学術的議論は後追いになっているのが実態です 。
2,016年4月2日
未完謹呈